参考文献
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イカリムシの生態
「錦鯉の病気」昭和51年発行より抜粋、内容についてわ20年前の発行であることを含み置き下さい。
- 症 状
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チョウと同じように魚の体表、鱗など所かまわず寄生するが、寄生部位は発赤し、粘液の異常分泌や上皮細胞の増殖があるために幾分隆起したようになる。患部には肉眼で容易に確認することができる虫体がつきささっており、ピンセットなどで抜き取ると頭部が錨状になっているのがわかる。
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本病は春から秋にかけて、水温が15℃以上の時に発生し始め、水温の上昇と共に増加する。又秋から春までの低水温期にもイカリムシの寄生が見られるが、これはイカリムシが魚体に寄生したままで越冬するからである。
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イカリムシによる直接の被害は魚体が寄生部位に損傷を受け、養分を吸収される程度のもので、それで魚が死ぬということはない。しかしながら、ニシキゴイの場合には、イカリムシの寄生そのものがニシキゴイの美観を損ね、観賞価値を低下させると共に、寄生部位の損傷がもとで“あなあき病”などの細菌性疾病の原因にもなり、二次的な被害は甚大なものになることが多い。又、口腔内に寄生した場合、魚は摂餌ができなくなり、衰弱して死亡することもある。
- 原 因
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節足動物、橈脚類に属するイカリムシの変形雌虫寄生によって起こる。魚体に寄生して越冬した変形雌虫は水温が15℃になると産卵を始め、卵からフ化した幼虫はノープリウスというミジンコに似た幼虫となり、水中を浮遊するようになる。その後脱皮・変態を繰り返してコペポディット幼生になり、魚に寄生したり、離れたりしながら成虫になる。そして交尾した後数日間で雄は死滅するが、雌は固着寄生を始めるようになり、体形が変形・伸長して頭部がイカリ型になり、魚体につきささるようにして寄生生活を送る。この時期になると肉眼でも確認されるようになる。フ化してから成虫になるまでの期間は水温22℃前後で約18日、27℃前後で約11日である。一尾の雌の産卵回数は13~15回(表を参照)に及ぶものもあり、1回の平均産卵数は約360なので、総産卵数は約5000にも達する。従って一尾のイカリムシの寄生を放置すれば、春から秋の間に天文学的な数の産卵が行われることになり、魚の密度が高い池では寄生する機会も多いために、おびただしい数のイカリムシ寄生を受けることになる。
- しかしながら水温が12℃以下になると成長が止まり、魚に寄生したままで越冬を行うが、水温が上昇するにつれて成長を再開し、水温が15℃位では16日、20℃位では8日で産卵を開始する。(笠原)
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- イカリムシ(固体別)の産卵期間と回数(採取による変形雌虫)
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期間(1956) |
左記 日数 |
産卵 回数 |
産卵 間隔 日数(平均) |
水温℃ (範囲) |
水温℃ (平均) |
4-21~5-7 |
17 |
5 |
3.4 |
11.8~20.1 |
15.8 |
4-25~5-18 |
24 |
7 |
3.4 |
11.8~20.1 |
17.4 |
4-25~5-11 |
17 |
5 |
3.4 |
11.8~20.2 |
16.2 |
5-22~6-14 |
24 |
10 |
2.4 |
17.9~23.5 |
20.9 |
5-28~6-25 |
29 |
13 |
2.2 |
18.8~26.0 |
22.5 |
6-4~7-3 |
30 |
15 |
2.0 |
19.6~26.0 |
23.0 |
7-18~7-29 |
12 |
7 |
1.7 |
24.5~28.6 |
26.6 |
8-31~9-7 |
8 |
5 |
1.6 |
25.5~27.5 |
26.2 |
9-1~9-9 |
9 |
5 |
1.8 |
25.5~27.5 |
26.3 |
8-22~9-7 |
17 |
10 |
1.7 |
23.5~27.5 |
25.3 |
9-1~9-12 |
13 |
8 |
1.6 |
25.5~27.5 |
26.3 |
9-1~9-14 |
14 |
7 |
2.0 |
25.5~27.5 |
26.0 |
- 治療法
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現在のところ親虫(変形雌虫)を駆除する薬剤はない。即ち肉眼で寄生を認められるようになってしまったイカリムシは、薬剤による駆除が不可能であるということである。従ってイカリムシの親を駆除するには、寄生魚に麻酔をかけ、ピンセットなどで引き抜くか、イカリムシの寿命が尽きて自然に死亡し、魚体から脱離するのを待つしか方法がない。ちなみにイカリムシ(変形雌虫)の寄生期間は水温22℃で約5週間、水温27℃で約4週間であり、この期間が過ぎると死亡する。
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イカリムシの親を駆除する薬剤が現在までのところないことは前述したが、イカリムシの幼生を殺虫、駆除することができる薬剤としてはトリクロルホン(マゾテン)がある。つまりイカリムシの卵からフ化したノープリウス幼生期よりコペポイド幼生期までの期間にいるイカリムシの幼生は、トリクロルホンによって駆除できるわけであり、トリクロルホンを連続的に池中に撤布することにより、次から次へとフ化してくるイカリムシ幼生を殺し、親の寿命が尽きてしまえば、その池中からイカリムシを撲滅することができることになるわけである。
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最も効果的なイカリムシの駆除法は、越冬中(水温が12℃以下の時)に成長を休止していた親虫が、再び成長・産卵を始めるようになる水温が15℃前後の頃から、2~3週間の間隔で3回、トリクロルホンを0.2~0.3PPMになるように池水に撤布することである。イカリムシ幼生がトリクロルホン0.2~0.3PPMで全数死亡するまでの時間は水温20~23℃で36時間である。従ってトリクロルホン撤布後約2日間は注水を止めて、止水状態にしておく必要がある。
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トリクロルホンの0.2~0.3PPM濃度というのはマゾテンの場合であれば、0.25~0.38PPMになるわけで、実際の撤布に当たってはマゾテンとして0.3PPM(池水1トン当り0.3グラム)の濃度が受当である。
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この時期以外、つまり初夏から秋にかけては水温の上昇と共にイカリムシ繁殖が盛んになり、幼生の出現する周期が不定期になるために、薬剤の散布を頻繁に行わなければならず、イカリムシの駆除は困難になる。又春に駆除をすることができた飼育池であっても、イカリムシ寄生魚やイカリムシ幼生の生息する用水を池中に入れた場合は、たちどころに寄生被害を受けることになるから、魚の搬入や用水には充分注意しなければならない。
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最近では越冬池水の水温を15℃以上に保って、越冬することが増えているが、そのような池水中ではイカリムシの成長が止まることはないために、繁殖し続け、魚の過密ということも加わって寄生数が増加することになる。従って冬期でも水温が12℃以上になっている飼育池では、定期的なトリクロルホンの撤布が必要である。
[錦鯉魚病の手引き]
[前項]
[次項]