月刊錦鯉97年5月号 連載・魚病ノートNo.13
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イクチオボド症(コスチア症)


 原生動物の鞭毛虫類に分類されるイクチオボド(Ichthyobodo)が鰓や体表に寄生して発生する病気で、以前の呼び名はコスチアである。

 イクチオボドの繁殖適温は水温10~20℃で、飼育池の環境によって繁殖する。摂餌不良、管理不十分、過密飼育によって鯉が弱っていると、発病しやすい。新しい鯉を入れる時に、魚体や水とともに池に侵入したり、自然発生的に起きる。観賞池、養殖池などあらゆる池で発生し、越冬中などで水質条件が悪い池で特に発生しやすい。

 外観症状は、他の体表や鰓に付く外部寄生虫による病気と似ていて、実際に混合寄生していることが多い。大量に寄生すると、その他の細菌などの病原菌の二次感染を誘発する原因となり、特に鰓に寄生した場合はダメージが大きい。

【発生時期】
 春~秋の越冬期や、越冬明けの体力の低下した時期に、環境条件や栄養条件の悪化が引き金となって発生するが、六~八月の稚魚期に寄生することもある。イクチオボドの発生は水温とあまり関わりなく、4~30℃の幅広い水温で活動する。

【検鏡】
 イクチオボドは、キロドネラやトリコジナなどと混合寄生することが多く、外観上の症状も似ているので区別しにくく、正確には顕微鏡で虫体の確認をする。
 イクチオボドは、寄生虫としては非常に小さい部類に入るので、顕微鏡でも見落とすことが多い。ほんの少し鰓を切り取って、5分間ぐらいの時間を置いてから観察すると、鰓に付着していた虫が、時間の経過につれて離れて動くので、見えやすくなる。スライドグラスにとり、200~400倍の顕微鏡で確認すると、形態は卵形で、腹側が多少湾曲し、口の部分に四本の鞭毛があり、そのうち二本は長い。この鞭毛で運動し、くるくると非常に早く回転する。
症状

 大量に寄生すると、体表各所の粘液が白濁し、白い膜で覆われた白雲症状を呈する。また体が赤く充血する。食欲が不振となり、注水口に群がったり、体をこすり付ける行動が見られ、水面近くを浮遊したり、または池底に静止し運動が不活発になる。そして、症状が進行すると死亡する。

 鰓に寄生した場合は、上皮細胞が侵蝕され、粘液が大量に分泌されて呼吸機能が低下し、斃死しやすい。


治療
 イクチオボド症の外観症状は、トリコジナ、キロドネラや、ダクチロギルスなどの外部寄生虫による症状と似ている上、それらと混合寄生している場合が多い。これらの駆除に共通して効果がある過マンガン酸カリウム、食塩、ホルマリンを用いた駆虫法を以下に挙げる。
【過マンガン酸カリウム】
①過マンガン酸カリウムの基本的な用い方は、水温15℃以下の時は、水1トン当たり2g、水温15℃以上の時は、水1トン当たり3gを溶解して薬浴、または散布。

②過マンガン酸カリウムの短時間薬浴……成魚で体力のある魚に限り、水1トン当たり5gで1時間の薬浴を、二日置いて三回以上繰り返す。時間厳守。鯉の様子を見ながら、鼻上げなどの異常が見られたら即座に中止する。
 または、同様に体力のある成魚に限り、水1トン当たり200gで3分間の薬浴。時間厳守。鼻上げなどの異常が見られたら即座に中止し、清水に戻す。
 重症魚の場合は、鰓の粘液分泌が著しく多いので、二~三日置いて反復薬浴しなければ効果が見られなかったり、再発することがある。
 過マンガン酸カリウムは、汚れた水の池では効力が半減し、鰓の組織を破壊する薬害があるので、薬浴に用いる水を清浄にしてから使用する。薬浴時間を超過すると、薬害、中毒症状を発生することがあるので、時間を厳守すること。池で用いる場合は、薬液の排出が容易で、新水の注水が十分にできる条件が必要。
 また、過マンガン酸カリウムは酸化剤のため、容器や池中の金属類は錆が生じやすく、手や衣服に付けば侵される。使用に際しては環境汚染に注意を払う。

【ホルマリン(ホルムアルデヒド35%溶液)】
③水1トン当たり、ホルマリン20~30で最低三日間以上の薬浴。ただし、当才魚の場合は25を限度とする。薬浴中は注水を止めるので、酸素欠乏に注意する。
 ホルマリンは人間に対しても毒性が強く、発ガン性もあるとされるため、取り扱いは慎重に行いたい。また、植物やラン藻類、藻類を枯死させるため、水変わりを起こす危険性もある。揮発ガスを吸い込まないように気をつけることはもちろんのこと、薬浴水の処理や、薬剤を溶かした池水の排水にも注意を払わなければならない。
 薬浴に用いる場合は、使用量を誤ると体表や鰭に充血・出血を見ることがある。また食塩との併用は避ける。

【食塩】
④2%食塩水……水1トン当たり食塩20㎏で10~20分間の薬浴。時間厳守。鯉の様子を見ながら行ない、異常が見られたら即座に中止する。��