- イカリムシのライフサイクル(模式図)。1はノープリウス幼生期、2はメタノープロウス幼生期、3~4がコペポデット期、5は固着初期の成体、6が卵のうを有した雌成体。[写真62KB]
- イカリムシ。頭部の錨型のカギを魚体に打ち込むようにして寄生する。[写真54KB]
イカリムシはチョウと並び、錦鯉や金魚などの観賞魚の寄生虫としてよく知られている。春から秋にかけて発生し、水温が11℃以下になると成長が止まる。低水温期は魚体に寄生したまま越冬し、15℃以上になると活動が活発となる。
魚体の体表、鱗、鰓など、あらゆる所に寄生し、大型鯉では口の中に寄生することも多い。イカリムシは魚体から壊れた細胞や組織液を栄養分として吸収しているが、害はおもに、目に見えるほど大きな異物が突き刺さることでの組織の破壊と刺激による。寄生された部位は炎症や出血を起こし、その傷が元で細菌等が二次感染して穴あき病などの重大感染を引き起こすこともある。
- 【ライフサイクル】
- 名前の由来は頭部の錨型の突起で、学名をLernaea`cyprinaceaという。甲殻類の一種で、ケンミジンコ類に近い仲間に分類されている。雌成虫の大きさは1㎝ほどで、一対の卵嚢がある。この卵嚢から孵化した幼生(ノープリウス期)は魚体から離れて一時自由生活をし、再び魚体に寄生する。
駆虫はこの時期の幼生に対して行う。駆虫に用いられるメトリホナート(=トリクロルホン。マゾテンやリフィッシュ等の主成分)は寄生している成虫や卵嚢内の卵には完全な殺虫効果はなく、したがって、完全に駆虫するには、3週間程度の間隔で反復散布をする必要がある。
魚体に付着した幼生(コペポディット期)は成体になると交尾をし、雄は死んで魚体から脱落する。雌は生き残って錨型の突起を魚体の組織に打ち込み固着生活に入る。さらに成長を続けて6~7㎜になると産卵を開始し、一カ月半~二カ月の寿命の間に約5000個の卵を産む。それが周期的に親に成長するので、放置しておくと天文学的な数に増える。大発生を抑えるためには春に徹底的な駆虫を行う。
- 症状
- イカリムシに寄生されると、部分的に発色、充血し、粘液の異常分泌や上皮細胞の増殖のため、多少隆起したようになる。寄生部位には3~12㎜程度の棒状の虫が突き刺さっていて、肉眼で容易に確認することができる。
病魚は胸鰭を小刻みに動かしたり、背鰭をふるわせたり、体を異物にこすりつけるような、通常と異なるさまざまな動きをする。飛び跳ねたり、過敏な泳ぎ方もする。
- 【初期症状】
- 初期は虫体が小さいため確認が困難で、寄生部位は白点状に盛り上がる程度である。
- 【大量寄生と二次感染】
- 大量に寄生すると、寄生部位周辺で粘液の多量分泌や充血がみられる。魚は静止して動かなかったり、池の隅に固まったり、または群れから離れ、水面を浮遊したり、食欲が無く、極度に痩せて体色が黒ずむようになることもある。
外観で見えない口腔内や鰓組織に寄生した場合は、衰弱、呼吸困難を引き起こし、死亡する場合もある。
寄生部位の傷が誘因となって穴あき病、立鱗病などを誘発し、二次的な被害をもたらすことがある。
- 治療
- ピンセットで除去するか、メトリホナート(マゾテンなど)の散布による駆虫を行う。また傷跡への二次感染を防ぐため、抗菌剤(エルバージュやパラザンD等)や消毒薬で消毒を行う。
- 【ピンセットによる除去】
- イカリムシは卵嚢が見えるようになると産卵するようになるので、子をまき散らす前に取り除く。ただし、虫体が小さいうちはちぎれやすいので、毎日観察して引き抜く時期を判断し、一度に一池すべての除去を済ませること。
1.オケを用意し飼育水と病魚を移す。時間がかかるようならエアレーションをする。
2.麻酔を用いる場合はオケの水に少量ずつ垂らしながら、鯉の様子を注意深く観察する。鰭が紫色になるようなら危険なので飼育水をつぎ足す(FA-100なら水10リットルに2~5㏄が目安)。
3.鯉を水から出さないようにしながら、入り込んでいるイカリ形の部分を残さないように取り除く。
4.除去した後の膿などを取り除き、抗菌剤で消毒後、池に戻す。
- 【メトリホナート(マゾテン等)による駆虫】
- メトリホナート(トリクロルホン)を主成分とする水産用の駆虫薬には、水産用マゾテン、マゾテン液-20、リフィッシュ、トロピカル-N等がある。イカリムシの他にチョウやダクチロギルス類の駆虫に効果がある。
メトリホナートは0.2~0.5mlの濃度でイカリムシの幼生を駆除することができる。水産用マゾテンなら水1トン当たり0.3~0.6g、マゾテン液-20なら水1トン当たり1.0~2.5mlが使用量で、池の水量に合わせて選ぶのが良い。
メトリホナート(トリクロルホン)は成虫や卵嚢内の卵の駆除には効果はなく、卵から孵った幼生を駆除するため、親虫の寿命が尽きるまで反復使用する。また、初夏から秋にかけては、水温の上昇とともにイカリムシの繁殖が盛んになり、前記のような周期的な幼生の発生が不定期となるので、薬剤の散布を頻繁にしなければならない。
また、メトリホナート(トリクロルホン)は水温30℃以上、pH8.5以上の時には毒性が強くなり、障害を起こすことがある。したがって、水温15℃以上に上昇する春先に散布するのが最も効果があり、安全でもある。
農薬のディプテレックスもメトリホナートが主成分であるが、魚毒性が無視できない。水産用として開発されたマゾテンでは、薬物が水中に均一に分布する添加剤を含有していて、魚毒性が低く安全性は高くなっている。また、リフィッシュやトロピカル-Nには細菌等の二次感染を予防する成分が含まれている。
いずれも使用量を誤るとギクなどの神経系統の障害を招くことがあるので、池の水量をできるだけ正確に求め、正しい薬剤の量を使用しなければならない。
また、エビ、カニ類は、メトリホナートの薬害を受ける。死滅したエビ、カニ類が水質の悪化をもたらすことになるので、これらの入っている池では使用を避けたほうが良い。ミジンコなどの甲殻類に属する餌生物も殺してしまうので、注意を要する。なお、池の中のアオコや有機物はメトリホナートを分解するため、これらの多い池では効果のないことがある。