月刊錦鯉97年6月号 連載・魚病ノートNo.14
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浮腫症


浮腫症
 浮腫症は名前の通り体の浮腫が特徴で、6~7月頃、放養直後の錦鯉の稚魚に限って発生し、大量死をまねく。
 従来、『浮腫症』に罹った鯉は三日ぐらいで全滅すると言われてきたが、最近では、病気の進行の穏やかなタイプの浮腫症も多くなっている。一週間~十日をかけてぽつぽつと死んでいったり、浮腫が一部の鯉に見られるだけで、他は元気に泳いでいるという状況も見られる。
 これらタイプの異なる浮腫症の原因は、同じウイルスであろうとほぼ断定されてきている。浮腫症は梅雨期に発生し、水温が25℃を越えると発病が見られなくなる。また高温の続く年は発生が少ないことから、原因ウイルスは高温に弱いと推測されている。

症状
 外観状は浮腫、眼球の落ち込みが特徴で、また、体表の出血や立鱗を見ることもある。病魚は遊泳を停止し、平衡感覚を失い、一斉に水面に浮上し、水流に流されて注水口や排水口付近に集結してしまう。しかし、同様の症状は、別の原因による病気でも見られることがある。
 浮腫症に罹った病魚の鰓は、上皮が著しく肥厚し、毛細血管を圧迫して、血行障害、循環障害を引き起こし、塩類の吸収、排出機能も麻痺する。

治療
 浮腫症は、越冬池などの加温設備のある池に鯉を入れて、塩水浴と同時に水温を上げることで、治療できることがわかってきた。通常の水温では5日間以上の塩水浴が必要だが、30℃以上にすると3~4四日程度で治療できる。また、細菌による二次感染も考えられることから、水産用テラマイシンや水産用パラザンなどの抗菌剤を併用する治療もなされている。
  1. 食塩……水1トン当たり、食塩5~6㎏で3~5日間の薬浴。
  2. 食塩と抗菌剤……①の濃度の食塩と、テラマイシン(水1トン当たり50g)、またはエルバージュ(水1トン当たり10g)、またはパラザンD(水1トン当たり100ml)の混合薬浴を3~5日間。エルバージュは直射日光に当たると分解が早いので、薬浴時は池に覆いをする。また、病気が発生した池をそのまま放置しておくと、鳥などがウイルスを運び、他の池にも伝搬して病気が拡大する可能性もある。発病した池の水は捨ててしまうか、サラシ粉などを撒いて完全に消毒し、他の池への感染を防ぎ、被害を大きくしない心掛けが、生産地域全体の防疫のためにも必要な対策といえる。予防新潟県内水面水産試験状の山田和夫氏は、浮腫症の原因ウイルスが池に密んでいるのではなく、親鯉がウイルスを持っていて、親と接触することによって稚魚が感染して発病している可能性が高いとの見解を示している(月刊錦鯉№90「浮腫症・眠り病・新しい鰓病の対策」)。

したがって、親鯉を飼育している池の水を、稚魚池に引き込まないといった心配りで、浮腫症の発病をかなり抑えられるのではないかとしている。

【水作りによる予防】
 植物プランクトンがよく繁殖した池、光が良く当たる池、晴天が続く時期などには発生しにくいとされていて、水作りと水質環境の安定化が予防のひとつとされる。また、池の底土をかき回すことにより、発生率を低下させられるとの説もあるが、確証を得ていない。

【天日乾燥と消毒剤の使用】
 従来から行なわれている天日(太陽)乾燥は予防効果がある。夏の日差しなら30分程度、陽光にさらしておけば完全にウイルスは死んでしまう。ただし、梅雨時期だと天日乾燥ができないので、消毒剤を使う方法と併せて実行する必要がある。
 浮腫症のウイルスは、さらし粉、逆性石鹸、イソジンなどで殺すことができる。ただし、これらの消毒薬は錦鯉に直接使用することができない。そのため、卵や産卵池、稚魚育成池を消毒することで、発病を抑える試みが継続試験されている。
 消毒は野池と卵の両方を行って効果がある。消毒後は、他の消毒しない池の排水などが入らない水源から飼育水を引く。消毒による予防効果は、広い地域で一斉に行うことにより、より一層効果が期待できる。

【野池の消毒方法】 
  1. 野池を予め、水を切って乾いた状態にしておく。高度さらし粉を水100リットルに対し、有効塩素濃度70%の場合なら150g、同じく有効塩素濃度60%の場合は170g溶かした消毒液を、晴天の日の午後から夕方にかけて隅から隅まで散布する。消毒の2~3日後から野池に水を張り始める。消毒液に次亜塩素酸ソーダを使用する場合は、有効塩素濃度10%溶液で100倍に希釈して使用する。
  2. 野池に水深10㎝ほど水を張っておき、水量に対して10~20ppmの有効塩素濃度になるように、高度さらし粉を水に溶かして散布する。または、次亜塩素酸ソーダを水で薄めて同じ濃度になる量を散布する。消毒後、2~3日置けば塩素は飛んでそのまま使用できる。消毒剤は吸い込むと、喉、呼吸器官を痛めるので、マスク等を使用して行う。近くの川や錦鯉等の入っている池には、絶対に消毒液を散布したり、流したりしない(魚の斃死事故につながる)。さらし粉や次亜塩素酸ソーダなどの塩素剤は、他の薬品類と混ざると大変危険である。

【卵の消毒方法】
 消毒を行う水槽、及び、消毒を終わった卵を収容する水槽は、予め高度さらし粉、または次亜塩素酸ソーダで消毒し、塩素を完全に飛ばしておく。
 魚巣はキンラン(化学繊維製)を用いて採卵する。シュロ皮などは消毒剤を吸着しやすいため、消毒の効果が充分にあがらず適当ではない。採卵後、発眼した時点で、水産用イソジン液を200倍に薄めた消毒液の中に卵をキンランごと15分間浸ける。消毒中はエアレーションを充分行い、酸素の補給と撹拌をする。消毒終了後、卵は浮腫症ウイルスで汚染されていない水をかけて消毒液を洗い流す。また、イソジンはハイポで中和(茶色の液が中和によって透明となる)した後、排水する。消毒・洗浄・卵を収容する水槽の水は水温変化がないように注意する。消毒後は、卵は浮腫症ウイルスに汚染されないように注意する。