トリコジナ症
トリコジナ(Trichodina属とその近縁属)は、原生動物の繊毛虫類に分類される寄生虫で、ほとんどの錦鯉に最も普通に見られる。古くからサイクロキータとも呼ばれてよく知られている。
虫の形は円盤状で、周囲に無数の繊毛を持っている。大きさは0・07㎜程度で肉眼では見えない。大量に寄生してもはっきりとした症状が現れないこともあるが、体表のザラつきや白雲症状、充血が見られ、食欲不振、動きが不活発になる。この症状はイクチオボドやキロドネラの寄生症と似ていて区別しにくく、また合併症のことも多い。正確には40~100倍の顕微鏡で確認することができる。トリコジナの駆除は比較的容易である。
トリコジナは、寄生した魚体の細胞崩壊物や、体表に付いたバクテリアなどを食べているので、病害は魚体に密着して寄生するさいの刺激によるらしい。
ほとんどの錦鯉に蔓延しているが、虫が数個発見されたからといって、すぐに駆除しなければならないような病気ではない。鯉が健全に育っていれば虫の繁殖を抑える力があり、飼育水の汚染や過密飼育、水温の急変、栄養状態の悪化などが要因となって、鯉の体力が低下した時に大量繁殖するものと考えられる。
①過マンガン酸カリウム……基本的な用い方は、水温15℃以下の時は、1トン当たり2g、水温15℃以上の時は、水1トン当たり3gを溶解して薬浴、または散布。
過マンガン酸カリウムは、汚れた水の池では効力が半減し、鰓の組織を破壊する薬害があるので、薬浴に用いる水を清浄にしてから使用する。また、過マンガン酸カリウムは酸化剤のため、容器や池中の金属類は錆が生じやすく、手や衣服に付けば侵される。使用に際しては環境汚染に注意を払う。
②過マンガン酸カリウムの短時間薬浴……成魚で体力のある魚に限り、水1トン当たり5gで1時間の薬浴を、二日置いて三回以上繰り返す。時間厳守。鯉の様子を見ながら、鼻上げなどの異常が見られたら即座に中止する。
または、同様に体力のある成魚に限り、水1トン当たり200gで3分間の薬浴。時間厳守。鼻上げなどの異常が見られたら即座に中止し、清水に戻す。
③2%食塩水……水1トン当たり食塩20㎏で10~20分間の薬浴。時間厳守。鯉の様子を見ながら行ない、異常が見られたら即座に中止する。
④ホルマリン……水1トン当たり、20~30mlで最低三日間以上の薬浴。ただし、当才魚の場合は25を限度とする。薬浴中は注水を止めるので、酸素欠乏に注意する。
ホルマリン(ホルムアルデヒド35%溶液)は人間に対しても毒性が強く、発ガン性もあるとされるため、取り扱いは慎重に行いたい。また、植物やラン藻類、藻類を枯死させるため、水変わりを起こす危険性もある。揮発ガスを吸い込まないように気をつけることはもちろんのこと、薬浴水の処理や、薬剤を溶かした池水の排水にも注意を払わなければならない。薬浴に用いる場合は、使用量を誤ると体表や鰭に充血・出血を見ることがある。また食塩との併用は避けなければならない。