月刊錦鯉96年10月号 連載・魚病ノートNo.6
(協力)錦彩出版 |
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鰓ミクソボルス症
原生動物の粘液胞子虫は千種類以上がいるといわれる魚の寄生虫である。特にミクソボルス類(Myxobolus)は種類も多く、鯉の寄生虫としては、鰓に寄生して病害性が強い鰓ミクソボルスが知られている。
鰓ミクソボルスの寄生を受けた鯉が斃死にいたるケースは、寄生を受けた鰓の組織が変形して鰓蓋(鰓ぶた)を圧迫し、呼吸がスムーズにできなくなるために窒息するもので、また、細菌が侵入して鰓腐れ病を引き起こす二次感染によることもある。
- 【治療法なし】
- 鰓ミクソボルスが寄生すると、鰓組織に白粒、白点状となって現れ、肉眼でもよく見える。一見すると白点病のようにも見えるが、白粒の大きさは5㎜ぐらいにもなることもある。熟練すれば見ただけで判断もできるが、残念ながら有効な治療法は、今のところ無い。
発生頻度は高くないが、前歴のないと思われる池でも突然発生することがある。
- 発生時期と症状
- 越冬初期から初夏にかけて発生するものと、五月から七月頃の高水温時に発生するものの二種類がある。越冬初期から初夏にかけて発生するものは、主に一才以上の魚に現れるが、死亡することはない。
- 【かえるづら】
- 夏の高水温時に当才魚に発生すると、重症の場合は鰓蓋が患部によって圧迫されて開いたままの状態になり、呼吸困難から衰弱する。死亡率も高い。外見から「頬ばれ病」とも言われ、頭の形がカエルに似ることから養殖業者は「かえるづら」とも呼ぶ。
病魚は、粘液が異常に多く分泌し、上皮細胞、粘液細胞が異常増生する。白粒、白点状の寄生体が発達してくると、鰓蓋が圧迫されて開いたままの状態になり、鰓組織が腫瘍状に腫れ上がる。さらに進むと鰓はうっ血し、暗赤色に変色、変形して癒着し、ザクロの実のような集塊を作るようになる。
病魚は食欲不振となって注水口に寄り、動作が緩慢になり静止しやすくなる。また、鰓腐れ病を併発して大きな被害を受けることが少なくない。
症状の軽い場合は、痩せていくぶん活力がなくなるものの、秋に入る頃には胞子が離れて、自然治癒する。
- 鰓ミクソボルスの生活史
- 鰓ミクソボルスは鰓組織に寄生すると、シストと呼ぶ袋状の硬い膜を作って寄生体を包む。寄生体はそのシストに守られて、その壁を通して魚から栄養を吸収するため、薬が効きにくく、治療の効果が上がらないのである。このシストの中で、秋には胞子が作られる。
シストは白粒で数ミリの大きさになり、肉眼でも確認できる。シストを押しつぶして、200~400倍程度の顕微鏡で見ると、茄子形をした胞子を確認できる。
やがて胞子形成が終わると、シストが破れて胞子が水中に放出される。放出された胞子のその後の生態は不明とされてきたが、最近では、イトミミズ類の体内で越冬し、春に形を変えて(放線胞子虫)、水中に泳ぎ出して鰓に寄生すると考えられるようになった。
- 対策と予防
- 【隔離と二次感染の治療】
- 有効な治療法が無いため、発生した魚は隔離するしかない。病魚は呼吸困難を起こしているので酸素の供給を十分に行い、また、鰓腐れ病を併発している場合があることから、抗菌剤による薬浴を一応実施しておくとよい(「カラムナリス病」の治療法を参照)。
一度鰓ミクソボルスが発生した池には、毎年発生する傾向がある。発生した池では注水量を増やして、エルバージュなどの抗菌剤を使用することによって、鰓腐れ病などの二次的な要因による被害は軽減できる。
症状の軽いものは、胞子の放出がすむと自然治癒することが多く、鰓もほぼ元の状態に戻る。
- 【伝染の防止】
- 鰓に腫瘍ができたものは発見次第処分し、他への伝染を防止するほうがよい。すくい上げて魚を焼いてしまうか、石灰をまぶして埋めるなどの処置をする。土池などでは、病気が発生した池の水が他に流入しないように防止策を講じる必要がある。
- 【予防】
- 秋に放出された胞子は、その後、イトミミズ類の体内で越冬すると考えられることから、土池では、池を干し、十分に日光消毒して乾燥させ、石灰などを散布してイトミミズ類を駆除すれば感染は防止できる。しかし、イトミミズ類の完全な駆除は難しい。
- 【ホルマリンによる駆虫】
- 鰓ミクソボルスは、水1トン当たり、ホルマリン1000(0・1%)で駆虫できるという。しかし、この濃度では魚も死んでしまうので、魚はすべて掬い上げてから池水のみの駆虫を行う。
ホルマリン(ホルムアルデヒド35%溶液)は人間に対しても毒性が強く、発ガン性もあるとされるため、取り扱いは慎重に行いたい。また、植物やラン藻類、藻類を枯死させるため、水変わりを起こす危険性もある。揮発ガスを吸い込まないように気をつけることはもちろんのこと、薬浴水の処理や、薬剤を溶かした池水の排水にも注意を払わなければならない。薬浴に用いる場合は、使用量を誤ると体表や鰭に充血・出血を見ることがある。また食塩との併用は避けなければならない。