大型魚では、水温20℃以上の場合、感染から発病までに2週間、発症から斃死までに1カ月を要した例があります。
治 療
本病では治療法が明らかになり、かなりの重症鯉でも治療は可能になっていますが、治癒するまで一カ月前後を要すること、治癒した場合でも、後遺症などにより観賞価値が低下することから特に早期発見、早期治療が重要です。魚を移動したり、新たに鯉を購入したなどで発病の危険が感じられた場合には、鯉をビニール袋に入れて、下から魚体の各部を観察するなどして、早期発見に努めて下さい。イカリムシ等の寄生がないのに鱗1枚程度が発赤または充血していたり、鰭の先端が出血して欠けているなどの症状があれば、本病の疑いがあります。少しでも症状が確認されたら、早期に獣医師が指示した動物薬または水産薬で治療して下さい。
◆経口投与による治療◆
この方法は庭池や蓄養池などの飼育魚全てを集団で治療する場合に適しています。なお、1尾でも病魚がみられた場合は、他の魚も感染している可能性が高いので、この方法により池全体の魚を治療して下さい。
- 動物用抗生物質のエンロフロキサシン(商品名バイトリル10%液)、ジフロキサシン(商品名ベテキノン25%可溶散)を使用する場合薬量は、1日につき魚体重1㎏当たり、バイトリル10%液では0.05~0.1ミリリットル、ベテキノン25%では0.02gを、通常投与するペレット等餌量の80~50%の餌量に吸着させるが、薬量が少ない場合にはバイトリルでは餌量の10%程度になるように水道水で希釈、ベテキノンでは餌量の10%の水道水に溶かし、霧吹き等で餌料に吸着、乾燥させる。紫外線で分解されるので、乾燥は涼しく日光が当たらない室内で行い、乾燥後は投与時の薬剤の流失を防ぐため、餌料の表面をフードオイル等でコーティングしたほうが良い。5~7日間投与する。
[飼育尾数1000尾、平均体重100g、1日当たりの通常の給餌量2㎏の場合の投薬例]
- 1日当たりの薬量の算出法
- 総魚体重=飼育尾数×平均体重(㎏)=1000×0.1=100(㎏)
- バイトリル10%の薬量=総魚体重(㎏)×0.05~0.1(ミリリットル)=100×0.05~0.1=5~10(ミリリットル)
- ベテキノン25%の薬量=総魚体重(㎏)×0.02(g)=100×0.02=2(g)
- 1日当たりの餌量は通常の50%とすると…1㎏
- 希釈または溶解する水の量=餌量の10%=1㎏×0.1=100(ミリリットル)
- 以上の計算から100ミリリットルの水に5~10ミリリットルのバイトリル液、または2gのベテキノンを加えて撹拌、希釈したものを霧吹き等で1㎏の餌にむらなく吸着させてから乾燥させる。
- 1日分を前日に作って翌日投与することが望ましい。
- 水産用フロルフェニコール2%液剤(商品名アクアフェンL)を使用する場合この薬剤については、症状が軽く本病かどうか不明の場合に使用して下さい。
薬量は、1日につき魚体重1㎏当たり0.5ミリリットルを通常投与する餌量の80~50%の餌量に吸着させるが、薬量が少ない場合には、餌量の10%程度になるようにフードオイルや家庭用のサラダオイルで希釈し、餌に均一に吸着させる。1日分を前日に作って翌日投与することが望ましい。5日間投与する。
[飼育尾数10尾、平均体重1㎏、1日当たりの通常の給餌量200gの場合の投薬例]
- 1日当たりの薬量の算出法
- 総魚体重=飼育尾数×平均体重(㎏)=10×1=10㎏
- 薬 量=総魚体重(㎏)×0.5(ミリリットル)=5(ミリリットル)
- 1日当たりの餌量は通常の50%とすると…100g
- 希釈するオイルの量=餌量の10%-薬量=100×0.1-5(ミリリットル)=10-5=5(ミリリットル)
- 以上の計算から5ミリリットルのオイルに5ミリリットルのアクアフェンLを加えて撹拌、希釈したものを100gの餌に吸着、浸透させる。
◆注射による治療◆
個体を隔離して治療する場合に適しています。
- 病魚をビニール袋で包み、袋の上から鱗と皮膚の間に斜めに注射する。
- 注射量
- 動物用バイトリル2.5%注射液では、1回量0.2~0.4ミリリットル/㎏魚体重
- 動物用バイトリル5%注射液では、1回量0.1~0.2ミリリットル/㎏魚体重
- 注射部位
- 背鰭後部から尾柄部の筋肉に注射するが、抜針の際に薬液が漏れないように、数秒間注射部位を押さえておく。部位は同じ場所を避けて、毎日変える。
- 注射回数……1日1回、3~5日間
(動物用抗生物質による治療対策は長谷川正昭獣医師の知見及び〈魚病学講習 新しい型の紅斑性皮膚炎(穴あき病)について 獣医師 小熊俊寿〉1997年 社団法人新潟県獣医師会)より一部引用しました。
〈注意〉
- 動物用抗生物質は獣医師の処方箋、指示がなければ使用できない。
- また使用に当たっては、鯉に対する毒性や副作用など未知の部分が多い薬剤なので、最寄りの 獣医師に相談し、用量、投与期間等はその指示を厳重に守ること。
◆外用薬の塗布による治療◆
人間に使用される外傷用の消毒剤であるヨードチンキ、イソジン、ネオヨジンなどを用いて症状の進んだ穴あき患部を消毒する方法であり、経口投与や注射による治療と併用して下さい。
●塗布の方法
①病魚をビニール袋に包み、患部を露出させる。
②穴あき患部周辺の欠損、壊死した鱗や皮膚を取り除く。
③患部とその周辺の水分や血液を拭き取り、脱脂綿等で薬液を塗布する。
④余分な薬液を拭き取ってから池にもどす。
予 防
新たに鯉を購入したり、品評会等に出品した鯉など、魚の移動があり発病の恐れがある場合には、水産用薬剤で、FRP水槽等を用いて薬浴をして下さい。なお、大量の魚を処置する場合は、前述のアクアフェンLを経口投与して下さい。
ミロキサシン(商品名 水産用オスカシン散)を用いて薬浴する場合
- 薬浴は、水量1立法メートル当たり600g溶かして用いますが、この薬剤はそのままでは水に溶けないので、オスカシンの1/60の量の重曹(重炭酸ソーダ)を添加して行い、食塩を加えて薬浴して下さい。その後にエピスチリス症などの寄生虫による病気を予防するために、マゾテン、マラカイトグリーンによる薬浴をして下さい。薬剤の濃度は下表を参考にして下さい。
水量 | 水産用オスカシン散 | 重曹 | 食塩 | マゾテン | マラカイトグリーン |
1立方メートルの場合 | 600g | 10g | 5 ㎏ | 0.3 ~0.5 g | 0.3g |
500㍑の場合 | 300 | 5 | 2.5 | 0.15~0.25 | 0.15 |
200㍑の場合 | 120 | 5 | 1 | 0.06~0.1 | 0.06 |
100㍑の場合 | 60 | 1 | 0.5 | 0.03~0.05 | 0.03 |
- 薬剤は、水産用オスカシン散と重曹を、バケツの水などであらかじめ混合してから水槽に入れ、水槽全体が均一になるように撹拌して下さい。
- 以上の薬液の中で、鯉を2日間薬浴し、水温は20~25℃を保持して下さい。
- オスカシンは、水槽に溶かした後で濁りを生じる場合がありますが、鯉に異常がなければそのまま薬浴を続けて下さい。
- オスカシンの薬浴終了後は、薬液を完全に排水してから、新たにマゾテン、マラカイトグリーンで3日間薬浴します。
- 〈注意〉
- 水槽の水量と薬剤の量は正確に計ること。
- 薬剤は光により分解されるので、遮光して薬浴すること。
- 薬浴中は酸欠を起こさないように、エアーレーション等を十分に行う。
- 薬浴終了後の薬液は河川などに流さずに、下水処理が可能な排水溝に流すこと。
- オスカシンの薬浴と寄生虫の予防は別々に行う。
以上、「新穴あき病」についてその対策等をお知らせしました。
現状では予防・治療が可能になり一段落したように思われますが、この病気については病原・感染条件等、まだ不明な点も多く残されています。
当振興会としても関係研究機関と連携し、これらの解明を早急に進め、皆様方が安心して錦鯉を楽しめるよう努力しているところです。
これからも、講習会の開催、魚病テキストの配付等により、新たな知見を基にした「魚病情報」をできるだけ早く皆様方にお伝えしたいと考えています。