月刊錦鯉97年11月号 連載・魚病ノートNo.21
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水カビ病


水カビ病
 水カビ病は、真菌類のミズカビ目、ミズカビ科、ミズカビ属(Saprolegnia)の数種の糸状菌が寄生して起きる。水生菌症、わたかぶり病などとも呼ばれる。
 本病は、魚の体表面や卵の外部に発生する外部寄生水カビ病であるが、金魚の真菌性肉芽腫症のように、ミズカビが筋肉内に寄生する内部寄生水カビ病も存在する。
 水カビ病は、何らかの物理的な障害を受けた時に、二次的にミズカビが寄生する疾病で、健康な魚には寄生しない。一次要因になるものとしては、細菌感染、外部寄生虫、スレなどによる傷の他に、水温急変や水質変化によるストレスが挙げられる。

【発生時期】
 晩春から春にかけて、水温20℃以下での発生が普通だが、産卵直後に傷を負った親鯉や、卵にも発生する。卵がミズカビに侵されると、孵化率は極端に低下し、自然採卵では孵化仔魚が皆無となることもある。

症状
 二次的な疾病なので、健康な魚が直接ミズカビに侵されることはない。鰭腐れ病、穴あき病、白点病などの病魚や、取扱いによる皮膚の損傷などが見られる魚に発生する。
 外観的な特徴は、体表に菌糸体と呼ばれる綿毛状の着生物が付着して、毛皮状に見える。体表に繁殖したミズカビは、表皮組織から奥に入り込み、寄生部位を壊死させる。
 病魚は食欲不振に陥り、水面を浮遊し、末期症状では排水部に力なく寄ることがある。本病による死因は、浸透圧差調節の破壊によるものである。(※①)綿毛様の着生物が見られる病気として、エピスチリス(ツリガネムシ)症を本病と見間違える場合があるが、ミズカビ病の菌糸は白く、指で摘めるくらい長い。一方、エピスチリス症の場合は、ビロード程度に毛足が短く、肉眼でも容易に判断できる。

治療
 本病の治療には、古くからマラカイトグリーンやメチレンブルーなどの色素剤が使用され、効果が知られている。ただし、マラカイトグリーンは水産用医薬品ではなく、その使用は条件付きで厳しく制限されている。取扱いには自己の責任において十分に注意を払わなければならない。(※②)また、本病による斃死は浸透圧差調整が破壊されることによるので、0・5%食塩水により、魚体内外の浸透圧を等しくすることで延命効果が期待できる。しかし、魚体の三分の一以上が本病に侵されると、治療効果は薄い。

【マラカイトグリーン】
  1. 水1トン当たり、マラカイトグリーン0・2~0・3gで、48時間の薬浴、または直接散布。長時間薬浴の場合は酸素欠乏に注意する。
  2. 水1トン当たり、マラカイトグリーン0・5~1gで、30分~1時間の薬浴。
  3. マラカイトグリーンの濃厚液を患部に直接塗布、数日反復する。濃厚液が鰓に入ると薬害が出るので十分に注意する。マラカイトグリーンはメチレンブルーの10~20倍という強い魚毒性があるので、使用量を間違えないこと。ミズカビは高温に弱いので、水温を20℃以上に上げると治療効果が高まるが、25℃以上では、マラカイトグリーンの魚毒性が高いので使用できない。マラカイトグリーンは有機物や活性炭に吸収されやすく、酸素によって変色したり、還元されて効果を失う。薬浴には清水を用いることで最も効果が上がる。有機物の多い観賞池では、水1トンに0・3gを散布する。また、マラカイトグリーンは人間に対しても発ガン性が指摘されており、入手出来ない場合もある。取扱いは十分に注意し、薬液を絶対に素手で扱わないようにする。環境汚染にも配慮して、使用後の排水は中和を確認して行わなければならない。

【メチレンブルー】
 メチレンブルーはマラカイトグリーンに比べ魚毒性は低いが、使用の注意はマラカイトグリーンに準じる。
 水1トン当たり、メチレンブルー1~2g(水溶液の場合は、成分量として)を散布。
 メチレンブルーを主成分とした水産用医薬品としては、グリーンFなどがある。

【ルゴセリン液】
 ルゴール液とグリセリンを1対2の割合で混合し、患部に塗布。初期の治療に。

【その他】
 綿状の菌糸を除去し、イソジンを塗布、エルバージュを水1トン当たり10~20gと食塩5㎏で薬浴。水温を25℃以上に上げる。特に体表の大部分にミズカビが寄生した重症魚では取り除く。

予防
 本病は二次感染であるから、一次原因となる要素を取り除くことで、本病の発生は抑えられる。寄生虫や感染症、取り上げなどによるスレは速やかに治療し、また、本病に感染した魚は隔離して、感染胞子が池水中に広まるのを防ぐ。しかし、感染源となる菌(遊走子)は池水中に常に存在していると考えられ、まず第一に必要なことは、感染症や寄生虫症が蔓延したり、水質変化を起こすような環境の見直しである。【卵の消毒】 孵化までの卵は、前もってミズカビの着性を防ぐことが必須条件となる。水1トン当たり、マラカイトグリーン2・0~2・5gで30分間の消毒を行う。※① 鯉をはじめ淡水魚では、魚体組織内のほうが環境水より浸透圧が高い。真水に長時間浸した手がふやけてくるように、淡水魚の体組織には常に環境水が浸透してくる。このため、淡水魚では常に多量の薄い尿を排泄し、鰓からは塩化物を吸収して、体組織内の濃度を一定に保っている。浸透圧差が高いほど、その調節にはエネルギーが必要になる。病魚の治療の際に0・5%食塩水が有効なのは、環境水の濃度を魚体組織内の濃度と近づけて、病魚に無駄なエネルギーを消費させないようにするという意味合いもある。

 ※②「水産用医薬品以外の物を、魚介類に対し、薬剤として使用することは極力さけることとし、
  1. 代替薬となる水産用医薬品がない等他に替わりうる手段がない場合であって、食用に供せられるおそれのない魚卵や稚魚の消毒などにやむを得ず用いるとき以外は、水産用医薬品以外の物を薬剤として使用しないこと。 
  2. やむを得ず水産用医薬品以外の物を使用する場合には、薬剤として使用した物を吸着し、又は中和するための措置を講ずる等環境の汚染が生じないよう十分配慮すること。(56水研第797号)