月刊錦鯉96年7月号 連載・魚病ノートNo.3
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白点病


 白点病は、錦鯉に限らず、魚を飼育したことのある者なら一度は目にする最もポピュラーな魚病である。白点病は、発病すると進行が早く、伝染性も高く、最も警戒を要する病気の一つでもある。水温25℃以下で一年中発生し、特に水温が変わりやすい春先や、梅雨時、秋口には発病しやすい。また、移動などで急激に水温や水質が変わると発病する場合が多い。白点病は早期発見が第一で、初期のうちに治療をすると、すぐに白点がとれて健康体に戻る。

【白点虫】
 原因虫は、原生動物の繊毛動物で、学名イクチオフチリウス・ムルチフィリス(Ichthyophthirius multifiliis)という。虫の大きさは0・7㎜程度で、大きなものは1㎜を越すものもあり、多くは肉眼でも確認できる。形は卵形または球形で、体全体が繊毛で覆われ、繊毛を動かすことによって遊泳する。
 白点虫は、魚の表皮を通過して表皮と真皮の境に寄生し、繊毛運動をして、血液や上皮組織の崩壊細胞を食べる。この刺激で、寄生された部位からは多量の粘液が分泌され、魚は体をこすり付けるような動作をする。
 夏場の白点虫(水温20℃以上)は肉眼ではほとんど見ることができないくらい小さいので、体をこすり付けるような動作を繰り返すようなら疑ってみたほうがよい。40~100倍程度の顕微鏡で見ると、黒い球形、または卵形の白点虫を確認できる。

症状
 初期には、胸鰭、頭部などにケシ粒より小さい白点が生じ、次第に全身に広がっていく。白点は指の腹で触ると砂粒状に感じられる。体を池底にこすり付けるような動作が見られ、食欲がなくなり衰弱し、注水口に集まったり、水面を浮遊したり、池底に静止したりする。また、狂ったような動作を見せることもある。
 症状が進むと、寄生部からは多量の粘液が分泌され白濁する。頭部よりも体部、とくに背部に大量に寄生する傾向があり、体表が赤く充血する。魚は体を壁などに擦り付け、症状はますます進み、重症になると表皮が剥離してボロボロになる。
 また、体表や鰭にたくさんの白点が見られる場合は、例外なく鰓にも寄生を受けている。鰓にのみ寄生した場合は、食欲不振、注水部に寄るなどが見られるが、鰓の粘液が多く分泌される以外の肉眼による判断は困難である。鰓に寄生すると酸素不足に極端に弱くなり、大形魚でも死亡することがある。

治療

白点虫のライフサイクル
 白点虫は、表皮下に寄生しているために直接の駆除は困難で、魚から離れたものを駆除することになる。このため、白点虫がどのようなライフサイクルを持つかを知れば、駆虫を効果的に行うことができる。
 白点虫が魚に寄生している時の状態を栄養体という。栄養体は成長すると魚体から離れ、繊毛によって水中を遊泳する。やがて水底に沈んで付着すると、繊毛が失われ、外側を厚い膜で覆われたシストと呼ばれる状態になる。
 シストの状態では運動は停止し、内部で細胞分裂が起こる。繁殖適温下でシスト一個当たり一日以内に数百~数千の仔虫が産生されるといわれる。仔虫はシストを破って泳ぎ出し、再び魚に寄生する。仔虫の寿命は約一日で、この間に寄生できないと死滅する。
 魚の体表下に寄生した状態や、シストの状態では、薬品による駆虫効果はほとんど無いと思ってよい。したがって駆虫の対象は、魚体を離れて遊泳している状態か、分裂して寄生する前の仔虫である。
 白点虫が寄生してから成熟して魚体を離れるまで、20℃前後で約一週間、14℃では約二週間、7℃では約三週間かかる。メチレンブルーなどの色素剤の有効期間は、飼育環境にもよるが一週間以内であり、仔虫が寄生してから成熟するまでの期間より短い。このため、一回だけの投薬で完全に白点虫を駆虫することは難しいと考えるべきだろう。効果的に治療を行うためには、投薬後、薬効期間が切れる前に、水を二分の一から三分の一取り替えて、再び投薬を行う。これを数回繰り返せば、ほぼ完全な駆虫が可能である。
予防
 白点虫は、新しい魚体や水とともに池に侵入することが多いので、新しい鯉を入れる時や、品評会に出品した場合には、徹底的な予防、駆虫をしてから池に放すようにしたい。
 また、池水の汚れがひどく、魚体の抵抗力が低下した時などに爆発的に繁殖するので、池水の浄化を十分にすることが予防になる。